岐阜県現代陶芸美術館のコレクションより、モダンデザインの系譜につながる西洋陶磁器を一堂に公開。
19世紀半ばから約100年間に焦点を当て、ドイツのマイセン、フランスのセーヴル、イギリスのミントン、デンマークのロイヤル・コペンハーゲン、フィンランドのアラビアなどのティー・ウェアやコーヒー・ウェアを中心に、室内装飾品などを加えた名品をご紹介いたします。
■ドイツ
ドイツは、現在洋食器の多くに使われている、純白の硬質磁器をヨーロッパで初めて作った国です。領邦国家に分かれていたため窯業地は点在しているのが特徴です。
本展で紹介する窯は、創業期によって3種類に分けられます。はじめに、18世紀に創業された窯です。王侯貴族の庇護下、硬質磁器を作るために設立されたもので、ヨーロッパ初の磁器窯であるマイセンをはじめ、ニュンフェンブルク、KPMベルリンが含まれます。
つぎに、産業革命を経て19世紀になると、エルンスト・ボーネ&ゾーネ、ローゼンタール、ヘルマン・オーメといった民間の磁器窯も次々に設立されます。
さらに20世紀には、機械と芸術性を融合させ、建築やインテリアなどの分野を統一的にデザインする理念を掲げた、総合造形学校兼研究所であるバウハウスの陶器工房も誕生しました。
■フランス
フランスは、ヴェルサイユの宮廷文化が花開き、アール・ヌーヴォーなどの芸術運動の一大拠点となった国です。本展で紹介する作品は、セーヴルの磁器と、19世紀後半のファイアンス(錫釉色絵陶器)に分けられます。
まずセーヴルは、フランス初の陶器窯であり、国の陶器産業の代表です。ブルボン王朝の支援を受けて王立となり、その後もナポレオン帝政、王政復古、共和制と政治体制が移り変わっても政府公認であり続けていることが大きな特徴です。ティーセットや花瓶に見られるシンプルで優美なフォルム、鮮やかな色彩や繊細な装飾などに、比類のない格調高さが表れています。つぎに、テオドール・デック、フェリックス・ブラックモン、エミール・ガレらがデザインした19世紀後半のファイアンスです。3名とも日本美術に傾倒したことで知られますが、とりわけ北斎漫画などからインスピレーションを得たブラックモンの「セルヴィス・ルソー」シリーズは、陶器におけるジャポニズムの顕著な例です。
■イギリス
産業革命が始まった地であるイギリスには、他のヨーロッパ窯とは異なる特色や背景がいくつかあります。
まず、窯はすべて民間の窯です。これはイギリスの王侯貴族たちの心が植民地経営に向いていて、製陶業への関心が薄かったことが主な理由です。王室御用達の栄誉を受けた窯のなかには「ロイヤル」の名を冠するものもありますが、王立というわけではありません。
つぎに当時に代わる素材と技術の革新です。イギリスでは硬質磁器の製造に必要な原料、カオリンが採れないため、動物の骨灰を配合したボーン・チャイナなどの新素材が生み出されました。さらに銅板転写など大量生産を可能にする技術も考案されました。
最後に、イギリスといえば紅茶です。18世紀中頃以降、上流階級から中流階級にも喫茶文化が浸透し始め、技術革新により安価な新素材の茶器が普及していきました。植民地インドで茶葉の生産に成功したことも、喫茶習慣の広がりに寄与しました。
本展では、ロイヤル・ウースター、ウエッジウッド、ミントン、ロイヤル・ドルトン、ムーアクロフト、スージー・クーパーの茶器を中心とした品々を紹介します。
■オランダ
17世紀の一大貿易大国オランダは、西洋陶磁史においても重要な存在です。オランダ東インド会社が運んだ中国・日本の磁器は、ヨーロッパ王侯貴族たちに磁器愛好趣味を広め、オランダで生産された白地に青の染付磁器風のファイアンス(錫釉色絵陶器)は、磁器の代替品として人気を博しました。磁器やブルー&ホワイトのカラーリングは今や洋食器のスタンダードですが、その背景には陶磁器を戦略的に利用したオランダの存在があったのです。
時を移して、本展で紹介するのはアール・ヌーヴォーが花開いた19世紀末創業のローゼンブルフとブランチェです。これらの窯はいずれも20世紀はじめには閉鎖されてしまいましたが、短い活動期間に他に類を見ない個性的なデザインを世に送り出しました。とりわけローゼンブルフのうねるような独特のフォルムに軽やかな色彩で花々を描いたエッグ・シェル(卵の殻のように薄い磁器)は、1900年のパリ万博博覧会で評判を呼び、オランダのアール・ヌーヴォー陶磁を代表する存在となりました。
■デンマーク
19世紀末、アール・ヌーヴォー期の陶器において、デザイン面でも技術面でも革新的な動きを見せたのが、デンマークのロイヤル・コペンハーゲンやビング・オー・グレンダールでした。デンマークでの磁器製造は1773年に始まります。1779年には王立磁器製作所が創立されましたが、1868年に民営化され、現在のロイヤル・コペンハーゲンへと至ります。一方、ビング・オー・グレンダールは1853年に創設された民間の窯です。
絵画的な表現を得意としたロイヤル・コペンハーゲンと、彫塑的な造形があるビング・オー・グレンダールには、いずれも飛躍のきっかけを作ったデザイナーがいます。奇しくも同年の1885年に芸術監督に就任した、ロイヤル・コペンハーゲンのアーノルド・クローと、ビング・オー・グレンダールのピエトロ・クローンです。彼らのもとで生み出された淡いパステルカラーの釉下彩や、宝石のように輝く結晶釉の作品は、アール・ヌーヴォーにおける磁器の典型となりました。
■フィンランド
フィンランドの陶磁器として多くの人が思い浮かべるのは、シンプルで機能的なフォルムのアラビアの食器ではないでしょうか。
アラビアは、1873年にスウェーデンのロールストランドが、ロシア市場への供給強化のためヘルシンキ郊外のアラビア地区に設けた工場がはじまりです。1916年にフィンランド資本となり独立して以降、今日まで続くフィンランドを代表する窯です。
開窯から25年ほどロールストランドのデザインを流用した製品を主力としていましたが、1900年頃には国内の「ナショナル・ロマンティシズム(フィンランド独自の民族文化を見出そうとする動き)」を背景に、オリジナルのデザインを生み出すようになります。
1932年に美術部門が設立され、ビルゲル・カイピアイネンなどの陶芸作家が輩出されていきます。1946年にプロダクト・デザイン部門長となったカイ・フランクによる、従来の洋食器や用途に縛られない機能的で温かみのあるデザインは、北欧の機能主義的なデザインを代表するものの一つです。
■旧ソヴィエト連邦
ロシアでは1744年にサンクト・ペテルブルクで帝室磁器製作所が開かれ、宮廷のために贅を尽くした品々を製造していました。しかし1917年の十月革命で帝政が崩壊すると工場が国有化され、支配階級のステイタス・シンボルであった磁器が民衆の手に渡りました。その後、1922年にはソヴィエト連邦が成立します。
ソヴィエト時代の陶磁器は政権のプロバカンタの一翼を担う一方、ロシア・アヴァンギャルドの芸術家たちが造形理念を形にするためのツールにもなりました。ロシア・アヴァンギャルドとは、20世紀前半のロシア革命前後に興った前衛的芸術運動の総称で、範囲は美術から音楽、建築、文学など多岐にわたります。とりわけ、カジミール・マレーヴィチらのシュプレマティズムの提唱者たちは、実用を度外視した実験的な陶磁器をデザインしました。自然の形の再現ではなく、円や四角など幾何学的形態で純粋な感情を表す、というシュプレマティズムの理論を、立体の磁器に応用したのです。
| 開催期間 | 2026年4月18日(土) 〜 6月21日(日) |
|---|---|
| 時間 | 10時~17時(入館は16時半まで) |
| 場所 | 三井記念美術館 |
| 料金 | 一般:1,500(1,200)円 ※70歳以上の方は1,200円 |
| アクセス | ・東京メトロ銀座線「三越前」駅A7出口より徒歩約1分 |
|---|---|
| 主催・協賛団体など | 主催:三井記念美術館 |
| TEL | 050-5541-8600 |
| お問い合わせ先 | (ハローダイヤル) 三井記念美術館 |
| ウェブサイトURL | https://www.mitsui-museum.jp |
| 備考 | <土曜講座> |