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「小原古邨展 ―花と鳥のエデン」茅ヶ崎市美術館で開催中〜四季の美しさを細やかに描き出す木版画技術の粋

2018年10月5日
この記事のテーマ:イベント・ニュース・取材日記

◆茅ヶ崎市美術館開館20周年記念
「原安三郎コレクション 小原古邨展 ―花と鳥のエデン―」開催中!

古邨展 観覧する人々

茅ヶ崎市美術館では現在、開館20周年を記念した企画展「原安三郎コレクション 小原古邨展 ―花と鳥のエデン―」を開催中だ。

小原古邨(おはら こそん/1877<明治10>年~1945<昭和20>年)は、花鳥画(=花や鳥をはじめとする、自然とその中の生き物を画題とする絵)を得意とした日本画家・版画家。
版元の「大黒屋」で制作された作品は海外への輸出が念頭に置かれており、多くの作品が海外へと渡っている。
生前から欧米の展覧会に出品され、好評を得ていたこともあり、現在でも国内以上に、海外で高い人気を誇っている。

同展で展示されるのは、同美術館と同じ高砂緑地の敷地内にかつて存在していた別荘「松籟荘(しょうらいそう)」の所有者・原安三郎氏(元日本火薬会長)による古邨のコレクション。
別荘跡地に建てられた美術館が今年20周年を迎えるにあたり、縁ある作品展をと、企画されたという。
同コレクションは2000年代以降になって発見されたもので、一般向けに公開されるのも今回が初めて。約260点中230点が初公開で、前期・後期に分かれて展示される。
摺(すり)と保存の状態も極めて良い作品が揃っており、版画に用いられている技術や美しい色彩を堪能できる。(会場ではルーペも貸し出し)
作品の中には裏側に「忠」と文字の入ったスタンプが押されているものが多くあり、どういった意味があるのかは判明していないものの、押されているものは明らかに摺の状態が良く、「初摺」(=版完成後、極めて初期に刷られたもの。大量に刷られる前なので仕上がりが美しいとされる)と断定してもよいクオリティだという。

◆四季の流れ、自然の姿を1枚に閉じ込めた優美な「花鳥画」

展示は順路通りに巡ると「春」「夏」「秋」「冬」と四季の流れに沿って展開。「春」はつぼみが開花し始めている梅の枝に止まる鶯(うぐいす)や尉鶲(じょうびたき)の版画から始まり、つくしが生え、桜が咲き、竹が育ち、梅雨を迎えて夏へ…と、季節が移ろう様を感じることができる。

古邨が下絵を担当し、大黒屋の彫師、摺師が豊かな技法を凝らした作品群は、まるで絵画のような優美さを持ちながら、絵画とは違う「版画」ならではの魅力に満ちている。

月に桜と烏

「月に桜と烏」

春の展示の1つ「月に桜と烏(カラス)」(=上写真)には「正面摺(しょうめんずり)」という技法が使われている。艶を出したい部分を残して彫った版木を絵の裏から当てて表面から陶器などで擦るという手法で、濃い色艶が出るのだという。同作品ではカラスの羽に使われている。

▲上記の絵のカラスを拡大。光の当たる角度を変えたりしながら見てみると、黒一色のカラスが立体的に浮き上がり、光沢ある羽の質感までリアルに表現されているのがよりよくわかる。

 

(右=「雨中の秋海棠(しゅうかいどう)に鳥影」、左=「雨中の鴨」)

淡い色を使用することによって、敢えて版木の木目を際立たせて写し取る「板目摺(いためずり)」という技法は、月の表面や雨の降る空、水面などに板目摺が活かされ、穏やかなうねりや立体感を表現するのに一役買っている。

また、同じ木をや枝を描く際でも、ある作品では細かな書き込みで肉筆画のように、また別の作品では大胆にシルエットだけを水墨画のように表現していたりと、作品ごとに多彩な表現方法が見られる点にも注目すると面白い。輪郭線をあまり用いないことや、ぼかしの巧みさも古邨の作品の特徴だという。

「古邨の花鳥画は、浮世絵から続く日本的な表現の中に、西洋絵画のような躍動感や遠近表現も取り入れられています。一方で、西洋での絵画の成り立ち上、月夜や、雨の降る風景など何でもない自然界の情景をモチーフにした絵は珍しく、同じ雨を描くにしても災害であったり、聖書の1場面であったりと宗教的、歴史画的な意味合いのある物がほとんどでした。
古邨の絵が海外で高い人気を博した一因として、身の回りの自然をあるがまま、静謐に描いているということ自体が日本的であり、エキゾチシズムが感じられたのかもしれません」(茅ヶ崎市美術館学芸員 月本寿彦さん)

季節を一巡りした先には、「吉祥(きっしょう)、寓意(ぐうい)」のコーナーがあり、縁起が良いモチーフを描いたものや、故事を取り入れているものなど、何かしらの意味が込められた作品がまとめられている。
最も美しい鳥と称される孔雀と不老長寿の象徴である松の木の組み合わせを始め、強さ、武力を象徴する虎、大黒様の使いとして富を表す白鼠などが描かれているこれらの作品はアートとしての意味合いだけではなく、部屋に飾る“縁起物”としての側面も大きかったと考えられる。

踊る狐

▲「寓意」の1枚「踊る狐」(※1)。狐は何かに化け、人を騙す不思議な力を持つことで知られていた。この絵では蓮の葉を被り、人間の豊作を祈る踊りを真似ている姿がユーモラスに描かれている。

◆別版元・別名義の作品や、古邨以前の花鳥画も参考展示

古邨は主に大黒屋から作品を発表していたが、ごく一部「滑稽堂」という版元からも作品を残している。また、国内での版画界衰退と関東大震災のあおりも受け、大黒屋の経営が傾いてからは別の版元・別名義でも作品を出版している。
別名義の「小原祥邨(しょうそん)」「小原豊邨(ほうそん)」としての作品はビビッドな色合いで、古邨の淡く静かな筆致とはまた違った味わい。
コーナーの終わりには歌川広重、国芳といった古邨以前の花鳥画を展示。共通点や違いを比較することで、古邨の絵柄に至るまでのルーツと、独自性が垣間見える。

滑稽堂版

▲滑稽堂版は大黒屋版と近い画風ながら、サイズが少し大きいものが多く、より大胆な構図や力強い表現が見られる

祥邨・豊邨作品

▲祥邨・豊邨作品はくっきりとした色合いで、古邨の作品と大きく印象が異なる。よりイラスト的になり芸術的観点から評価がされにくいが、技術の高さは見て取れる

◆高い技術が込められながら”見る人を選ばない”古邨の魅力

▲「蓮に雀」(※2)

「花鳥画は美しく、かつ親しみやすいモチーフなので、見る人を選びません。取り分け古邨の花鳥画には、明治~大正時代、伝統木版画界全体が衰退へと向かっていたからこそ、彫摺技術の粋を尽そうとしたかのような豊かさに満ちています。これまで、日本では一部の愛好家を除けば殆ど知られていない画家でしたが、この機に、これだけの作品を残し、海を超えて愛されていた日本人がいたことを知っていただけたらと思います」(月本さん)

古邨の作品には、鳥や動物のつがいや親子が頻繁に描かれており、ほのぼのと可愛らしい作品も多い。

▲左=「枝垂れ桜に燕」中央=「鶏の親子」右=「土筆(つくし)に猿の親子」

「小鳥の顔を敢えて真正面からとらえていたり、どことなくユーモラスなおかしみがある所も私は好きなんですよね。皆様も、あまり難しいことは考えず、じっくりと眺めながら、自分にとっての魅力を自由に見つけて、楽しんでもらえればうれしいです」(同氏)

松籟荘模型

展示室3には、同コレクションの所有者であった原安三郎氏と、氏の別荘「松籟荘」を紹介するコーナーを設け、松籟荘の模型、実際の家具、当時の写真などを展示する。

会期は2018年9月9日(日)~11月4日(日)迄。~10/8(月・祝)までが前期、10/11(木)以降が後期となり、作品全点が入れ替えられる。(本記事は前期に取材)

(※1)(※2)=画像は茅ヶ崎市美術館より提供
(※)上記以外の画像は取材時に展示作品を撮影。光や映り込みが入ったりしているため、記事の参考までにご覧の上、実物は是非美術館にてご覧ください

◆「原安三郎コレクション 小原古邨展 ―花と鳥のエデン」の概要

開催期間 2018年9月9日(日) 〜 11月4日(日)

※前期・後期で全点入れ替え(前期のチケット提示で後期の観覧券200円引き)
[前期:9月9日(日)~10月8日(月・祝)/後期:10月11日(木)~11月4日(日)]

時間 10時~18時(入館は17時半迄)
休館日 月曜(10/8は開館)、10/9(火)、10(水)
場所 茅ヶ崎市美術館 展示室1・2・3
料金 一般700円、大学生500円
※高校生以下、市内在住65歳以上の方、障害者およびその介護者は無料
アクセス JR茅ヶ崎駅南口より徒歩約8分

主催・協賛団体など 公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団
お問い合わせ先 TEL 0467-88-1177 茅ヶ崎市美術館
URL http://www.chigasaki-museum.jp/
チラシ クリックでPDFが開きます 

【関連催事】

◆カフェトーク 「古邨のそこんとこ気になります」
美術館カフェ「ル シュマン」で、小原古邨の魅力を学芸員とともに語り合いましょう。
日時 : 10月13日(土) 15時~16時
講師 : 月本寿彦氏(展覧会担当学芸員)
会場 : 美術館カフェ「ル シュマン」
料金 : 500円(ワンドリンクとお菓子付き)
定員 : 20名(申込制/先着順)
対象 : どなたでも(展覧会を観覧したあとが望ましい)

◆ ミニコンサート 「なつかしい日本のうた」
茅ヶ崎ゆかりの音楽家が、小原古邨が活躍した時代をはじめとする懐かしい日本の歌曲を紹介します。
日時 : 10月14日(日) 14時~15時
出演 : 竹村 淳氏(バリトン)・青島陽子氏(ピアノ)
会場 : 美術館 エントランスホール
料金 : 無料
席数 : 約50席(事前申込不要)

◆観月句会&茶会 「花鳥風月 古邨の世界に遊ぶ」
美術館で作品を鑑賞した後、しばし風流韻事のひとときを過ごしましょう。句作を楽しんだあとは、お茶を一服いただきながら日本 庭園から眺める十三夜に思いを馳せてみませんか。
日時 : 10月21日(日) 17時~20時
講師 : 金子宗貞氏(裏千家助教授)
会場 : 美術館2階 アトリエ、松籟庵(高砂緑地内)
料金 : 300円(お抹茶・お菓子代/要観覧券)
定員 : 20名(申込制/先着順)
対象 : 小学生以上(小学生は保護者同伴)

◆ 学芸員による 「ギャラリートーク」
展覧会担当学芸員が会場を巡り、展示作品を解説します。
日時 :10月8日(月・祝)、11月3日(土・祝)、各日14時~15時
会場 : 美術館展示室
料金 : 無料(要観覧券/事前申込不要)