第1章 「ゲームばかり」が心配になる、本当の理由
夕暮れの湘南。
夏休みが近づき、海へ向かう人が少しずつ増えてきました。
一方、家の中ではこんな光景が広がります。
「ご飯できたよ」
「あと5分!」
返ってきた返事は、さっきと同じ。
その”あと5分”が、気付けば30分になっている。
ゲーム機を手放さない子どもを見て、「またゲーム?」とため息をついた経験がある保護者の方も少なくないのではないでしょうか。
辻堂店でも、会員様から、こんなご相談を本当によくいただきます。
「ゲームばかりで困っています」
「時間を決めても守ってくれません。」
「禁止した方がいいのでしょうか」
このご相談をいただくたび、私は「ゲームをやめさせる方法」よりも、もっと大切なお話をしています。
それは、
「ゲームが問題なのではなく、ゲームとの付き合い方が問題なのかもしれません」
ということです。
そして、この話をするためには、今、日本の教育そのものが大きく変わろうとしていることを知っていただく必要があります。
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子どもたちは、親とは違う時代を生きていく
私たち親世代が受けてきた教育は、「正解を覚え、正確に答える力」が評価される時代でした。
漢字を覚える。
公式を覚える。
年号を覚える。
もちろん、それらは今でも大切です。
しかし、AIが急速に普及した現在、「知識を覚えていること」だけでは大きな価値になりにくくなっています。
分からないことがあればAIに聞けば数秒で答えが返ってくる時代です。
だからこそ、これから社会で求められるのは、「知識を持っている人」ではなく、「知識を使って新しい価値を生み出せる人」です。
実は、この考え方は国の教育方針にもはっきりと表れています。
現在、文部科学省では次期学習指導要領の改訂が進められており、小学校では2030年度から新しい学びが始まる予定です。
そこで重視されているのが、
「情報活用能力」
そして
「探究学習」
という考え方です。
これは単にタブレットが使えるようになるという意味ではありません。
必要な情報を集め、
自分で考え、
試し、
失敗し、
仲間と協力しながら答えを見つけていく力。
つまり、「正解を探す力」ではなく、「答えを創る力」を育てようという教育への転換です。
第2章 ゲームは「悪者」なのか。それとも「道具」なのか。
ここで、少し視点を変えてみましょう。
「ゲームばかりしている」
そう聞くと、多くの人は心配になります。
勉強しなくなるのではないか。
外で遊ばなくなるのではないか。
コミュニケーションが苦手になるのではないか。
その不安は、とても自然なことです。
私自身、保護者の方からご相談を受けるたびに、そのお気持ちはよく分かります。
しかし一方で、こんなことも感じています。
私たちは、”ゲーム”という言葉だけを見て判断してはいないでしょうか。
たとえば、本です。
本を読むことは良いことだと言われます。
けれど、本にもさまざまな種類があります。
小説もあれば、図鑑もあります。
漫画もあれば、辞書もあります。
一冊読んだからといって、すべてが同じ学びになるわけではありません。
ゲームも同じです。
「ゲーム」とひとくくりにしてしまうと、本来見えるはずの違いが見えなくなります。
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例えば、Minecraft(マインクラフト)
ブロックを置くだけのゲームに見えるかもしれません。
しかし実際には、設計し、材料を集め、試行錯誤しながら一つの世界をつくっていきます。
友達と一緒に遊べば、「誰が何を担当するか」を自然に話し合うことになります。
建築士のように設計し、
エンジニアのように組み立て、
時にはリーダーとして仲間をまとめる。
そんな体験が、遊びの中に含まれています。
一方で、Fortnite(フォートナイト)のようなゲームでは、瞬時の状況判断やチームワークが求められます。
相手の動きを読み、
仲間と役割を分担し、
限られた時間の中で最善の判断を繰り返します。
もちろん、ゲームの種類によって得られる体験は異なります。
そして、長時間遊び続けることや、生活リズムを崩してしまうことは決して望ましいことではありません。
だからこそ、大切なのは、「ゲームをすること」ではなく、「ゲームとどう付き合うか」なのです。
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実は、この考え方は、これからの学校教育とも重なっています。
文部科学省が重視している「探究学習」は、先生から答えを教えてもらう授業ではありません。
自分で課題を見つけ、
情報を集め、
考え、
試し、
失敗し、
もう一度挑戦する。
まさに試行錯誤の繰り返しです。
考えてみると、多くのゲームも同じ構造になっています。
最初から攻略法を知っている人はいません。
失敗しながら、
「次はこうしてみよう」
「この方法ならどうだろう」
と考え続ける。
この経験そのものが、「探究する力」の土台になっているのです。
もちろん、だからといって「ゲームをたくさんやれば探究力が育つ」と言いたいわけではありません。
大切なのは、その経験を家庭の中でどう意味付けるかです。
「今日はどんな工夫をしたの?」
「何が難しかった?」
「友達とはどうやって協力したの?」
そんな会話をするだけで、ゲームは単なる遊びから、「考えるきっかけ」へと変わります。
ゲームの時間を管理することも大切です。
課金のルールを決めることも大切です。
でも、それと同じくらい大切なのが、
子どもがゲームの中で何を感じ、何を考え、何を学んでいるのかに、親が興味を持つこと。
AIが当たり前になる時代。
知識はAIが教えてくれるかもしれません。
しかし、「なぜそう考えたの?」「どうしてその方法を選んだの?」という対話は、AIではなく家族だからこそできることです。
ゲームを取り上げる前に。
ゲームを禁止する前に。
まずは、子どもの世界を少しだけ一緒にのぞいてみる。
そこから始まる子育ても、きっとあるのではないでしょうか。
第3章「ゲームが問題」ではなく、「ひとりで抱え込むこと」が問題なのかもしれない
辻堂店で保護者の方からゲームについてご相談を受けるとき、私は一つ気付いたことがあります。
実は、皆さんがお困りなのは「ゲーム」そのものではありません。
本当に悩んでいるのは、その先にあることです。
「気付いたら何時間も遊んでいる」
「何をしているのか分からない」
「課金が心配」
「夜遅くまでやっていて朝起きられない」
「部屋にこもってしまい、会話が減った」
こうして並べてみると、共通していることがあります。
それは、
ゲームそのものではなく、「家庭から見えなくなってしまうこと」への不安です。
子どもが何をしているのか分からない。
誰と遊んでいるのか分からない。
どんな会話をしているのか分からない。
だから心配になる。
これはゲームに限った話ではありません。
スマートフォンでも、SNSでも、生成AIでも同じです。
「知らないこと」が、不安を大きくしてしまうのです。
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「禁止」は簡単。でも、それで終わるでしょうか。
保護者として、一番簡単な方法は「やめなさい」と言うことです。
時間を決める。
ゲーム機を預かる。
Wi-Fiを切る。
もちろん、年齢によっては必要な場面もあります。
小さなお子さんであれば、生活リズムを守るために親が主導してルールを決めることは大切です。
しかし、子どもが成長するにつれ、「禁止」だけでは解決できない場面が増えてきます。
中学生、高校生になると、友達とのコミュニケーションの一部がオンラインゲームやSNSの中にあることも珍しくありません。
一方的に取り上げることで、親子の会話まで減ってしまうこともあります。
だからこそ必要なのは、「禁止するか、自由にさせるか」という二択ではありません。
どうすれば、安全に付き合えるかを一緒に考えることです。
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ルールがある家庭は多い。でも、大切なのは「作り方」
こども家庭庁が公表した「令和7年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」では、10〜17歳の子どもがいる家庭の67.5%が、「インターネット利用に関するルールがある」と回答しています。
つまり、多くのご家庭では、すでに何らかのルールを決めています。
「夜9時まで」
「リビングで使う」
「課金は親に相談する」
どれも、とても大切なルールです。
でも、ここで一つ考えてみてほしいことがあります。
そのルールは、親が一方的に決めたものでしょうか。
それとも、親子で話し合って決めたものでしょうか。
この違いは、とても大きいのです。
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「守らせるルール」から、「守りたくなるルール」へ
海外の研究では、親が一方的に制限する関わり方は、子どもの反発や隠れた利用につながる可能性がある一方で、日頃から親子のコミュニケーションが取れている家庭では、より健全なデジタル利用につながる傾向が報告されています。
もちろん、家庭環境や子どもの年齢によって状況は異なりますが、「対話」が大切であるという点は、多くの専門家が共通して指摘しています。
この連載の第3回で、「ルールは親が与えるものではなく、一緒に作るもの」とお伝えしました。
その考え方は、ゲームでも変わりません。
たとえば、
「何時までなら翌朝も元気に起きられるかな?」
「課金をするなら、どんな約束が必要だろう?」
「ゲームをする時間と、宿題や睡眠の時間をどう両立しようか」
こうした問いかけを通じて、子ども自身が考え、納得して決めたルールは、「守らされる約束」ではなく、「自分で守ろうと思える約束」になりやすいものです。
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私たち大人も、新しい時代を学ぶ途中にいる
ゲームも、スマートフォンも、生成AIも。
子どもたちは生まれたときから当たり前にある世界で育っています。
一方で、私たち大人は、その変化を後から学んできた世代です。
だから、分からないことがあって当然です。
知らないことを恥ずかしいと思う必要はありません。
むしろ、「教えて」と子どもに聞いてみることが、会話のきっかけになることもあります。
「どんなゲームなの?」
「誰と遊んでいるの?」
「何が面白いの?」
そんな何気ない会話から、子どもの世界が少し見えてきます。
そして、それはゲームを理解すること以上に、子ども自身を理解することにつながっていくのではないでしょうか。
第4章 子どもを守る場所は、「フィルタリング」の前に「お茶の間」かもしれない
ここまで、「ゲームとの付き合い方」について考えてきました。
では、実際に家庭では何から始めればいいのでしょうか。
そのヒントは、実は学校にあります。
文部科学省は、中学校へのスマートフォン持ち込みを認める際の考え方として、次のような点を示しています。
•管理方法と責任の所在を明確にすること
•フィルタリングを適切に設定すること
•危険性やトラブルへの対処法を家庭と学校で学ぶこと
•学校・家庭・子どもが協力してルールを決めること
どれも特別なことではありません。
そして、この考え方はスマートフォンだけではなく、ゲームやタブレット、そして生成AIとの付き合い方にも、そのまま当てはまります。
共通しているのは、「禁止」ではなく、「一緒に関わる」という姿勢です。
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一番大切なのは、「見守れる距離」にいること
フィルタリングは、とても大切です。
ペアレンタルコントロールも必要です。
利用時間を設定する機能も、家庭を支える便利な仕組みです。
でも、それだけで子どもを守れるでしょうか。
たとえば、リビングでゲームをしている子どもが、「やった!」と笑っている。
その隣で親が夕食の準備をしている。
何気ない会話が生まれる。
「今日は誰と遊んでいるの?」
「そのゲーム、どんなところが面白いの?」
そんなやり取りが自然にできる環境は、どんな設定よりも多くのことを教えてくれます。
逆に、自分の部屋でドアを閉め、一人で長時間過ごすようになると、子どもの変化に気付きにくくなります。
ゲームをしているのか。
動画を見ているのか。
SNSを使っているのか。
生成AIと会話をしているのか。
それさえ分からなくなってしまうことがあります。
問題は、ゲームではありません。
「親の目が届かない状態」が続くことなのです。
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「監視」ではなく、「安心して話せる関係」
ここで大切なのは、子どもを監視することではありません。
子どもは成長とともに、自分だけの世界を持つようになります。
友達との時間も増えます。
親に話したくないことが出てくるのも、ごく自然な成長です。
だからこそ必要なのは、「いつでも相談できる関係」を家庭の中に残しておくことです。
ゲームで嫌なことがあった。
知らない人からメッセージが届いた。
課金してしまった。
SNSで困ったことが起きた。
そんなときに、「怒られるから言えない」ではなく、「まずはお父さん、お母さんに話そう」と思えること。
それが、どんな機能よりも強い”安全対策”になります。
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「お茶の間」が持つ、本当の意味
PC DEPOTでは以前から、スマートライフ学、スマートライフデザイン学という学問を普及する中で『デジタル生活安全のしおり お茶の間編』という教科書を使って会員様へ考え方をお伝えしています。
その中で伝えたいのは、「リビングにゲーム機を置きましょう」ということだけではありません。
お茶の間とは、家族が自然に顔を合わせ、言葉を交わし、お互いの変化に気付ける場所です。
デジタル機器が家の中に増え、AIが身近になり、一人ひとりが画面と向き合う時間が長くなった今だからこそ、この「共有する空間」の価値は、以前にも増して大きくなっています。
便利な機能や新しいサービスは、これからも次々に登場するでしょう。
しかし、どれだけ技術が進歩しても、家族の会話を代わりにしてくれるテクノロジーはありません。
子どもの表情の変化に気付くこと。
「今日は学校どうだった?」と声を掛けること。
ゲームの話で一緒に笑うこと。
それは、家庭だからこそできる大切な時間です。
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AI時代だからこそ、家庭の価値は高まる
AIは、これからさらに進化していきます。
分からないことを教えてくれる。
宿題を手伝ってくれる。
文章を書いてくれる。
画像も動画も作ってくれる。
子どもたちは、私たちが想像する以上にAIを使いこなすようになるでしょう。
でも、AIにはできないことがあります。
子どもの小さな変化に気付くこと。
「今日は元気がないね」と声を掛けること。
うれしいことを一緒に喜び、悔しいことを一緒に受け止めること。
それは、家族にしかできません。
AI時代だからこそ、人と人とのつながりは、これまで以上に価値を持つようになります。
そして、そのつながりが最も自然に育まれる場所が、「お茶の間」なのです。
最終章 完璧な親でなくていい。子どもと一緒に育っていけばいい。
ここまで5回にわたり、AI、家庭のルール、スマホデビュー、そしてゲームについてお話ししてきました。
毎回、取材やご相談を通して感じるのは、多くの保護者の皆さんが、本当に一生懸命だということです。
「このままで大丈夫だろうか」
「もっと厳しくした方がいいのかな」
「他の家庭はどうしているんだろう」
子どものことを思えば思うほど、正解を探したくなる。
そのお気持ちは、とてもよく分かります。
でも、AI時代の子育てには、一つだけ知っておいていただきたいことがあります。
誰も、その正解をまだ知りません。
私たち親世代が子どもの頃、スマートフォンはありませんでした。
SNSもありませんでした。
生成AIもありませんでした。
だから、親も、先生も、専門家も、みんなが「初めての時代」を歩いています。
つまり、子育ての正解を知っている人がいるのではなく、みんなが手探りで学びながら進んでいるのです。
だからこそ、大切なのは「完璧な親」を目指すことではありません。
分からないことがあれば、一緒に調べる。
新しいゲームが出たら、「どんなゲームなの?」と聞いてみる。
AIを使っていたら、「どうやって使っているの?」と話を聞いてみる。
子どもに教えるだけではなく、子どもから教わる。
そんな時間があってもいいのではないでしょうか。
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子どもたちは、私たちが思っている以上に、大人の姿を見ています。
「知らないからダメ」と決めつける大人よりも、
「分からないから教えて」と言える大人。
「失敗するな」と叱る大人よりも、
「一緒に考えてみよう」と寄り添う大人。
そんな背中から、子どもは”学ぶ姿勢”そのものを学んでいきます。
AIがどれだけ進化しても、その姿勢だけは、人から人へしか受け継がれません。
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この連載では、何度も「一緒に考える」という言葉を使ってきました。
AIも。
スマートフォンも。
ゲームも。
大切なのは、使うか、使わないかではありません。
子どもが、その道具とどう向き合い、どう使いこなしていくか。
そして、その隣に、話を聞いてくれる大人がいること。
それが、AI時代を生きる子どもたちにとって、一番の安心につながるのだと思います。
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湘南の海は、今日も変わらず波を繰り返しています。
穏やかな日もあれば、風の強い日もあります。
同じ波は一つとしてありません。
子育ても、きっと同じです。
思い通りにいく日もあれば、うまくいかない日もある。
昨日までできていたことが、今日はできないこともあります。
だからこそ、焦らなくていい。
完璧でなくていい。
大切なのは、子どもと同じ時代を、一緒に歩いていくことです。
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AIは、これからも進化し続けます。
ゲームも変わります。
スマートフォンも、きっと今とは違う形になっているでしょう。
でも、どんな未来になっても変わらないものがあります。
それは、夕食の食卓で交わす何気ない会話。
リビングで一緒に笑った時間。
「今日はどんな一日だった?」
そんな一言から始まる、家族の時間です。
テクノロジーは暮らしを便利にしてくれます。
けれど、家族の信頼関係をつくるのは、いつの時代も人です。
だから私は、これからも皆さんにお伝えしていきたいと思います。
AIと上手に付き合う方法ではなく、AI時代でも変わらない、人と人とのつながりの大切さを。
そして、その始まりは、いつも同じ場所です。
今日も家族が集まる、いつもの「お茶の間」から。
今夜、ゲームをやめさせる前に、一つだけ聞いてみてください。
「今日は、どんなことが楽しかった?」
その会話が、AI時代の子育ての第一歩になるかもしれません。