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【とこ湘Blog】読書日記その5 「頬に哀しみを刻め」とアメリカ南部とスリービルボード

投稿日:2023年5月25日
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こんにちは! とことこ湘南編集部Yです。

最近読み終わった小説が、滅茶苦茶面白かったのでご紹介します。

S・A・コスビー「頬に哀しみを刻め」

ハーパーBOOKS 文庫

MWA賞長篇賞最終候補作! 黒人の父親、白人の父親、惨殺された息子たち――血の弔いが幕を開ける。

殺人罪で服役した黒人のアイク。出所後庭師として地道に働き、小さな会社を経営する彼は、ある日警察から息子が殺害されたと告げられる。白人の夫とともに顔を撃ち抜かれたのだ。一向に捜査が進まぬなか、息子たちの墓が差別主義者によって破壊され、アイクは息子の夫の父親で酒浸りのバディ・リーと犯人捜しに乗り出す。息子を拒絶してきた父親2人が真相に近づくにつれ、血と暴力が増してゆき――。アンソニー賞、マカヴィティ賞、バリー賞総なめ。絶賛の嵐! (ハーパーBOOKS HP 作品紹介より)

…と、いうわけなんですが…今回、書影がありません。
読み終わって即、「読んでくれこれ!!」と、弟に貸してしまったからです。

そして現在は同じ作者の前作をすぐに買ってきて読んでおります。
貸す前に1枚撮るべきだったなと思いますが、それぐらい面白かったんだという事が伝われば幸いです。
また、手元にないままこの日記を書いているので色々とうろ覚えであることをご承知おきください。m(_ _)m

上記のあらすじ、息子の夫、その父親…と続柄の説明が多くて少し混乱しますが、要は同性婚をしていた息子同士が殺されてしまい、両者の父親2人がコンビを組んで犯人を追う復讐譚です。
主人公・アイクはアメリカ南部で生まれ育った黒人で前科者。マッチョが服着て歩いているような価値観の持ち主で、相棒となるもう1人の父親・バディ・リー(こっちも前科者)もまた南部育ちで殆ど似たような価値観に加え、アイクの前でもうっかり人種をネタにしたジョークを言ってしまうような人物です。

2人は息子達が元気なうちは2人のことを理解できず、「直せる」と思って暴力をふるったり、家族ぐるみのBBQの最中に結婚報告を受けて、飛雄馬の父親よろしくBBQ台をひっくり返したりしていました。この作品をとても哀しいものにしているのは、アイクとバディ・リーが「生きていてさえくれればよかったんだ」と気付いた時には何もかも遅すぎたという点です。愛していたのに、それを示すことよりも自分の中の偏見を向けることを選んでしまっていたことに、失って初めて気が付く。あまりに深い、身を切るような後悔は、本当は復讐でも癒せるものではありません。

前時代的な偏見に首まで浸かって今まで生きてきた人間が、変わる必要性に直面した時にどう行動するか。
2018年度のアカデミー賞受賞映画「スリービルボード」にも通ずるテーマを感じます。

スリービルボードで印象的だったシーンでサム・ロックウェル演じる差別主義の白人警官が、年老いた母相手に仕事の愚痴をこぼす一幕がありました。

「最近じゃ黒人が警官になるんだよ!」

そしたらお母さんが表情も変えずにきっぱりと、

「そんなの間違ってるよ」

…すごい……力強い言い方なんですね。忘れられません。
この映画も舞台はアメリカ南部。見ただけでここで生まれ育ったとわかる、もうほとんどおばあちゃんと言ってもいい年齢の彼女はこの価値観のまま生涯を送るでしょうし、それを責めることは出来ないと私は感じました。そして誤解を恐れずいうと、だから「悪人」とも言えないと思うんですね。
差別が「悪」なのであり、差別する人間は時に生まれや環境によってその価値観に首まで浸かってしまっています。
ですがこの後示される事実として、実は彼女の息子の警官自身が実はマイノリティであり、孤独と苦しみの中にいることがわかります。(攻撃的で人を殴ったりしてるんですけど)
母親である彼女はただ、無自覚に毎日少しずつ彼を傷つけている可能性があり、そういう意味では両者とも可哀相です。

堅苦しい話になってしまいましたが、だからこそ「スリービルボード」や「頬に哀しみを~」が素晴らしい作品だと言いたいんじゃないんですよ。エンターテインメントしても最高に面白いんです。そこが良いんです!!

アイクは元来真面目な人間であることに加えて日々人種差別と元犯罪者であることに偏見とも戦う暮らし、更には犯人への怒りで冗談の1つも口にはしません。ですが相棒のバディ・リーは同じ哀しみを抱え、酒浸りでありながらも常に何かしらジョークを言わないではいられないコメディリリーフ的な性格で、2人のやりとりはボケと突っ込みのような、ユーモアあふれるものになっています。
話としても「犯人を調査」と言っても2人が探偵というわけでもないので、基本的には人を訪ねてはバイオレンス、というリーアム・ニーソン主演映画のようなシンプルな展開で、アクション映画好きにもオススメ。所謂”ナメてた相手が殺人マシーンだった”作品の王道中の王道です。
むしろ映画化しないかな? と期待してしまいます。

読み終えて誰もが感じるであろう教訓は、「好きな人とは仲良くしておこう」ということです。
どんな環境で生まれ、どの様に育った、どんな属性の人間でも、これだけは肝に銘じて間違いないことだと思われます。

(Y)

 

 

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